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生涯学習講座
 イチローの努力
イチロー選手
まじめに努力することが軽く見られている時代、だからこそ努力する大切さを見直してみませんか?
志門塾生涯学習部では、平成15年11月に社会人の方を対象に岐阜校10F、本部3Fにおいて「努力は本当に報われるのか?〜成功の裏には失敗あり〜」と題した講座を行いました。本講座では様々な努力人を取り上げて、どのように努力し、結果を出していったのかを紹介しました。特に今回は講座で取り上げた「大リーガー イチロー選手」を紙面にてお伝えしたいと思います。
イチローイチロー(鈴木一朗)
1972年愛知県生まれ。愛工大名電高校卒業後、オリックスブルーウエーブにドラフト4位で入団する。入団3年目には初の首位打者を獲得。その後、日本野球界に数々の記録を残し、2001年大リーグに挑戦。2004年5月には日米通算2000本安打を達成。現、シアトル・マリナーズ所属
(1)真剣にやった膨大な練習量

イチローイチローが日米野球界に残している記録、パリーグ7年連続首位打者(1994年〜2000年)、日本人初大リーグ<アメリカンリーグ>首位打者(2001年)、1シーズン連続216打席連続無三振(1997年)などありますが、これらの記録はどのプロ野球選手も成しえなかった記録です。この記録を前にして皆さんは「イチローは『天才』だからこの記録がつくれたのだ」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。本当にそうなのでしょうか。イチローのことをいろいろ見てみると、単に彼が「天才だから」という言葉では説明がつかないのです。イチローの練習の取り組みを見てみるとそれがわかります。

 小学校3年生の時にイチローは野球をはじめます。小学校のクラブでは野球部がなかったので、スポーツ少年団に入ります。しかし、スポーツ少年団の練習は日曜日しかありませんでした。もっと野球の練習をしたいイチローは自営業をしていたお父さんに「学校から早く帰ってくるからお父さんと野球をやりたい」と相談します。
「そうか、それじゃ、おとうさんが毎日、夕方から相手してやるから、やるか。」
「うん、ぼく、やる。」
「よし、それならこれは男の約束だ。破るな。」
「破りません。」 
そして、毎日、お父さんとの練習が始まりました。夕方はグランドで、夜は家の近くにあるバッティングセンターに行き毎日毎日練習をしていました。ではどのようにイチローは毎日お父さんと練習に取り組んでいたのでしょうか?後にこの当時を振り返ってイチローは次のように言っています。

小学校3年から中学校3年まで、毎晩お父さんと通いつめた空港バッティング(愛知県豊山町)この8番ゲートでバッティングの練習をしていた。

―お父さんは「毎日、一朗と遊んでいたようなもの」とおっしゃっていますが。
イチロ― 父は外ではそう言うのですが、実際は遊びというのは綺麗ごとですね。そんなわけはないですよ。毎日が真剣で、父は必死で相手をしてくれていたし、僕にとっては苦しい時もあった。まあ、何年も続けていくと生活の習慣というか、学校から帰ったら必ず伊勢山グランドへ行って野球をすることが決まりになった。だからサボるという発想にはならなかったですね。たとえ、僕が行きたくないと言っても父は「必ず来いよ」と言って先に行ってしまう。その姿を見たら子どもでも遊んでられませんよ。結局、練習が始まれば楽しくなるし。

―小学校時代の4年間があったから今のイチローさんがあるのではないですか。
イチロ― そう思います。一番大きな物を与えてくれたんじゃないかな。中学時代よりも、高校時代よりも。野球に必要な感覚を体に刻み込めたということですから。ボールを捉える感覚であったり、投げる感覚であったり、捕る感覚であったりするんですけど。父は野球のプロではなく素人だから、逆によかったんだと思うんです。型にはめられることもなかったし、僕のやりたいようにやれたので。僕なり、速い球を投げるにはどうしたらいいかとか、遠くに飛ばすにはどうしたらいいかとかということを考えながらやったので、それが良かったんでしょうね。
小松成美『イチロー・インタビュー Attack the Pinnacle』(新潮社、2000年)

どうでしょうか。イチロー少年がどのように野球に取り組んでいたのかお分かりになったのではないかと思います。彼は真剣に練習量をこなしながら、「自分の頭で速い球を投げるには、遠くに飛ばすにはどうしたらいいか」と問題意識を持ちながら練習をしていたのです。ただ漠然とお父さんに言われるまま練習をしていたのではないのです。ただ量だけこなして、こなした量を振りかえって自己満足している姿はそこにはありません。
イチローは小学生でありながら、問題意識を持ちながら膨大な練習量をこなしていたのです。

(2)「暗黙知」を知る
イチロー具体的な問題意識を持って、真剣に多くの練習を続けていくと、どうなっていくのでしょうか?「ああでもない。こうでもない。」と自分の頭で考えながら真剣に量をこなしていく。すると微妙な違いが分かってくるのです。その微妙な違いが解れば、自分にしか違いが分からない着眼点を知るようになります。これを「暗黙知」といいます。この暗黙知を知ると「このようにしたら、たぶんこうなるだろう」というものが見えてきます。そうなると、練習によって習得したもの(技)が安定して出すことができるようになるのです。
イチローはプロ3年目で首位打者を獲得し、毎年のように首位打者のタイトルを獲ていましたが、自分のバッティングには満足していませんでした。自分のバッティング理想を求めて、他の選手の2倍3倍も寮の練習場で練習をしていました。ナイターの試合が終わって、遅く寮に帰ってきたとしても、彼はバッティング練習をしていました。自分の中で問題意識を持ちながら・・・。首位打者だった7年間にも、バッティングホームは多少変化しています。イチローは完成されている選手で、レギュラーも約束されている選手と見られることもありましたが、彼は現状に甘えることなく試行錯誤の中で自分の理想を追い求めていたのです。そして、プロになって8年目、ゲームの打席でイチローはある境地に達します。彼はセカンドゴロに倒れてアウトになったのですが、はたから見るとただのセカンドゴロなのですが、イチローは一塁に走る間に何かをつかんだのです。その時のことをイチローは振り返って次のように言っています。

僕は最悪のセカンドゴロだったのですが、次の瞬間、嘘のように目の前の霧が晴れていったのですよ。「ああッ、これなんだ!」と思いました。これまで捜し求めていたタイミングと体の動きを、一瞬で見つけることが出来た。それをあやふやにではなく、頭と体で完全に理解することが出来たんです。

僕の理想のバッティングは、目に見えないほどの誤差があっても実践不可能です。だからこそ、誤差を修正するセンサーを持たなければならない。僕はあのセカンドゴロのおかげで特別な感覚を得られましたが、もしかしたら、これはこの上ない幸運だったかもしれない。その感覚を捜し求めて、見つからぬままであってもおかしくなかった。
小松成美『イチロー・インタビュー Attack the Pinnacle』(新潮社、2000年)

彼は、この瞬間「誤差を修正するセンサー」という自分にしかわからない「暗黙知」にたどり着いたのです。彼はこの「誤差を修正するセンサー」を得たことによって、具体的にどうなっていったのか?イチローは「それまでは分かりかけては消えてしまった感覚が、今では数学の定理のように明確に認識できている。二度と迷わなくてもいいわけですから闇雲に不安に陥ることもない。」といっています。7年連続首位打者のイチローには、他のバッターより厳しい球で攻められるのですが、彼はこのセンサーを得たことによって、さらに安定した打率を残していけるようになったのです。

(3)「準備」というのは・・・
イチローイチローの努力の仕方を見て参りましたが、努力して結果を残すには、具体的な問題意識を持って、常に考えながら真剣に多くの練習を続けていくことが必要であるということです。そのように練習をしていけば、自分にしか違いが分からない着眼点(暗黙知)にたどり着け、自分で問題を解決する道筋をみつけることができるのです。
「誤差を修正するセンサー」という暗黙知を獲得できたイチローは、現在、安穏とした選手生活を送っているのか。けっしてそうではありません。大リーグへ移ってから、インタビューでイチローは自分のプレーを振り返って、次のように言っています。

「例えば、クラブの手入れを前の日にしなかったとします。その次のゲームでたまたまよくないプレーをしてしまったら、おそらくそこで後悔が生まれるわけです。そういう要素を全部なくしていきたい。そうしておけば、どうしてダメだったかという理由もわかりやすいでしょう。要するに「準備」というのは、言い訳の材料となり得るものを排除していく、そのために考え得るすべてのことをこなしていく、ということですね」
石田雄太「嘔吐と呼吸困難の中で二百本安打」(『文藝春秋』2003年12月号)

この言葉からも、イチローが大リーグで常に毎日ベストの状態でグラウンドに立ち、ベストのプレーをするために問題意識を持って努力しているか分かると思います。「準備をする」ということだけでも、問題意識のある人とない人とでは、このように意識が全然違うのです。
イチローの努力のしかた、「具体的な問題意識を持って、常に考えながら真剣に多くの練習を続けていく」それは私たち日常生活においても、非常に参考になると思います。

(生涯学習部 秋枝博士の講義より)
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