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『迎え来てください』
『迎え来てください』

「もしもし〜、迎えに来て〜」校舎の電話近くでよく聞かれる言葉です。
その言葉を聞くと、私は生徒に、「迎えに来て〜、じゃなくて、迎えに来てください、でしょう?」と言います。 みなさんはどうですか?どんなふうにお家に電話をしていますか?
 私は社会人になって、つまり志門塾の講師となって5年目になりますが、5年前までは、皆さんと同じ学生でした。

小学6年生から高校3年生まで、ずっと塾に通っていました。家から遠い塾だったので、電車で通っていましたが、車で送り迎えしてもらったこともたくさんあります。電話をかけて迎えに来てもらうとき、その当時の私の発した言葉は……やっぱり「迎えに来て〜」や「終わったから来て〜」というものでした。私もそんなふうに電話をしていました。それではなぜ今、生徒に、「迎えに来てください、でしょう?」と言うようになったのか。それは、親元を離れ、一人暮らしをし始めて、あることに気づいたからです。

 私は大学へ、2時間かけて自宅から通っていたので、社会人になって、初めて一人暮らしを始めました。一人暮らし!とてもわくわくしていました。何でも自由にできる!と。しかし、数日たつとわかってきたのです。一人暮らしの大変さが。何が大変かって、どれだけ疲れていても、食事の用意も洗濯も掃除も……、すべて自分でしなくてはならないこと。夜遅くまで仕事をしても、朝は早く起きないと、ごみも出せません。体調が悪いときも、すべて自分でしなければなりません。熱が出て、動きたくないようなときでも、薬は自分で買いに行かなければなりません。薬を飲むためには、少しでも何かを食べなければならないけれど、それも自分で用意しなければなりません。今まで、だれがそれをしていてくれたの?そうふっと思ったとき、いかに今まで両親によくしてもらっていたのかが、よくわかりました。

 休日の塾の授業は、私が学生のときも朝からでした。三重から愛知県の東海市まで、毎日朝早く車で通勤していた父、休みもなかなかとれない毎日です。小さいころ、家族で遠出をした記憶がほとんどありません。日曜日でも父は仕事に行っていました。だから、きっとゆっくりしたかったはずの久々の休日の朝、でも文句も言わず、目をこすりながら私を塾まで送ってくれました。
私が大学生になっても、大学と仕事場が近かったこともありますが、私の体調が悪いときには、「乗せてって〜」と頼むと、わざわざ少し遠回りしてでも、乗せていってくれました。

 母は、専業主婦ではありません。自宅で週3回、夕方から夜まで、幼稚園児から成人までの書道教室を開いています。時間の合間をぬって夕食の準備をし、また夜の教室へと向かいます。夏休みなどの長期の休みには、塾と同じ、朝から教室を開けています。書道教室以外の日は、自宅でゆっくりできるかというと……それはできません。私の祖母が、自宅から車で数十分のところに1人で暮らしていますが、足が悪く、血圧も高いので、週に1、2回は病院にいかなければならないからです。家で昼間にゆっくり…なんてことは、ほとんどできないのです。父が通勤に時間がかかる分、どれだけ疲れていても毎日5時には起きなければならない母、まだ私たちが寝ている間にお弁当(父・私・妹の3人分)を作ってくれたり、アイロン(父の作業着・私と妹のブラウス)をかけてくれたり。私がまだ夢の中にいるときに、しっかりごみ出しも終わっていました。
  母だって、休みの日くらいゆっくり起きたかったはず。でも、塾でご飯を食べるときには、朝早く起きて、ご飯を炊いて、おにぎりを作ってくれました。

 そんなふうにしてもらえるのが当たり前のように毎日を過ごしていた私、親元を離れてようやく気づきました。
 「何でも自分のためにしてくれるのが親、何でもしてもらえるのが当たり前」と思っていた自分がとても恥ずかしいです。どれだけ、自分たちの貴重な時間を、私のために費やしてくれたのか。今は感謝の気持ちでいっぱいです。私はそれに、社会人になって気づきました。気づくはいいけれど、少し遅かった。もっと早くに気づいていれば、もっと両親にゆっくりしてもらえたのにと、今思います。

 だから、私はまだ学生のみなさんに今気づいてほしい。送り迎えしてもらうのは、当たり前のことではありません。夜遅くまで自習室を利用して、お家の方に迎えに来てもらうみなさん、みなさんも勉強頑張っていることと思いますが、送り迎えしてくれるお家の方も、眠い中、夜遅くに車を運転して迎えに来てくださるのです。お風呂に入った後でも、皆さんのために、寒い中迎えに来てくれるのです。「迎えに来てください」と丁寧に言うのは、少し恥ずかしいと思うかもしれません。なかなか言えないかもしれません。でも、感謝の気持ちを持ってください。決して「当たり前」ではないんですよ。

 今日から、はじめてみませんか?「迎えに来てください」の言葉を。もちろん、送ってもらったときは、「ありがとう。いってきます」の言葉ですよ。

 
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